【完】シューティング★スター~バスケ、青春、熱い夏~
俺のオフェンスのターン。



そのタフなスタミナを活かして、顔を近付けべったり俺にディフェンスをする有ちん先輩。



右に、左に、上に、下に。



どう揺さぶろうと執拗についてくる有ちん先輩に、抜くにはどうすべきか冷静に考える。



…この人相手なら、スピードで緩急を付けて抜いて、そのまま逃げ切る他、ないよね。



ダム……ダダダダン!



一定の速度で打っていたドリブルを腰を落として早めると、有ちん先輩もグッと腰を落とす。



…………今だ!



その、腰を落とした瞬間を狙い、状態を高く上げ飛び上がり、左手でふわり、と頭上に上げて右側にボールを投げ、フットワークで右にとびボールをキャッチ。



そのまま右手でドリブルをつき、ゴールまで走ってレイアップを放った。



「もし曜や行雲やったら、ゴール下まで走って追い付けたやろうし、仇野やったら頭上にボール投げた時、ブロック出来たとやろうね…」



口から飛び出す、うちのスタープレイヤー達の名前。



「小鳥遊、ボール貸して」



言われて、ボールを投げると、有ちん先輩は膝をグッと曲げて、体を大きく使い、その場からショットを放った。



しかし、それはゴールリングに嫌われ、ガン、と音を立て、地面にストンと転がった。



「これが冷泉やったら、リングに当たることもなく、点ば取っとるとやろうな」



………有ちん先輩の気持ちが、本選前の不安と緊張と共に、溢れ落ちるような、そんな感覚。



「何で俺にはなかとやろう。何で、俺だけなかとやろうな……」



それは、有ちん先輩が心の奥に眠らせていた、無い物ねだり。
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