窒息寸前、1秒
「花那ちゃんには敵わないな…。分かった話すよ。」
力なく笑った先輩に、私は無言で頷く。
「由梨子が隆弘のこと好きだなんて、婚約した時から知っていたんだ。側に居られればいいし、何より由梨子の気持ちを尊重してやりたかった。利用されるのだとしてもね。」
「それは、由梨子さんのお父さんへの復讐したい気持ちってことですか?」
「そうだよ。俺と由梨子の婚約は由梨子の母、つまり元妻が望んだこと。しかも、由梨子の母親と俺の母親は従姉妹。父親と新しい妻への当て付けにちょうどいいだろ?」
悲しそうに笑う先輩の姿に、胸が痛む。
「それでよかった。最初はね。隆弘は俺の可愛がっていた後輩でもあるし、由梨子がそうしたいのなら、隆弘の所へ行ってもいいとまで思ってた。」
「そこまで、由梨子さんのことを…。」
好きな人のために自分自身を顧みない先輩。
まっすぐで、行き場のない恋心。
「でも、花那ちゃんと会って知った。」
「私…ですか?」
「うん。それまでは由梨子と隆弘は両想いだって思ってたんだ。なのに、隆弘には花那ちゃんがいる。俺は自分をコントロールできなくなった。」