窒息寸前、1秒
「どうして謝るんですか?先輩は何も悪くないです。あれは…。」
本当に、先輩は悪くないのに。
あれはたまたま偶然で。
それに、ふたりが会うことをメールを見て知っていたのは私なのに。
悪いとしたら、私の方。
「俺はね、ふたりが会うことを知ってたんだ。由梨子が今日隆弘を迎えに行くって言ってたから。」
それって…もしかして?
先輩が私を強引に学校から連れ出したのは、私に由梨子さんを会わせないため?
あの中庭にいたら、当然迎えにきた由梨子の赤い車が見えてしまう。
だから…。
「それに、俺はあの店、由梨子と行ったことあるのに…。由梨子は気に入ってたから、今日来る可能性だってあったのに…。」
本当に申し訳なさそうに言う先輩。
「まぁ、気づかれなかったんだから、良しとしませんか?」
私はわざと明るい声を出す。
気にしてないよ。
先輩のせいじゃないよ。
という気持ちを込めて。
「…そうだね。」
「はい!」
「本当に、花那ちゃんはお人好しだね。」
先輩にも伝わったのか、ふふっと軽く笑う先輩。
「じゃあ!また!」
「うん。またね。」
先輩は軽く手を振って、踵を返す。
そんな先輩の背中を見送りながら、私が
「お人好しは、どっちなのよ…。」
と呟いたのを先輩は知らない。