窒息寸前、1秒
「先輩、本当に初めてですか?」
「ん?そうだよ。なんで?」
先輩はニコニコと笑みをうかべながら、両手にぬいぐるみとお菓子を大量に抱えている。
ゲームに夢中になって、先輩を見失ってはぐれていた間にUFOキャッチャーで捕ったのだろう。
それにしてもこんなに大量に捕らなくても…。
「いくら使ったんですか?」
「5000円だよ。」
なんでもないかのようにサラリと言う先輩。
「そんなに景品いっぱい…。」
「そう!すごいでしょ?」
溜め息まじりの私の言葉に、自慢気に景品を見せながら明るく言う先輩。
「すごいですけど、そんなにいっぱいどうするんですか?」
「んー…。あっ!ねぇ、そこのぼく?」
「ちょっと、先輩!」
いきなり、近くにいた小学校低学年くらいの男の子に話しかける。
一緒にいる男の子のお母さん、先輩 を怪しそうに見てますけど…。
男の子も先輩を警戒心丸出しで見つめている。
先輩はそんなふたりの視線なんて気にしていないかのように、男の子に目線を合わすために
しゃがんで、それからにこりと笑って、
「お兄さんね、いっぱい捕りすぎちゃったんだだから、もらってくれないかな?」
両手にある景品を差し出した。
「え…?いいの?」
「もちろん。欲しいものある?」
不思議そうにしている男の子を安心させるように、優しく微笑む先輩。
「うん!これとこれとこれ!」
警戒心もすっかり薄れた男の子はハキハキと嬉しそうに答える。
「はい、どうぞ。」
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
とっても嬉しそうに言う男の子。
「どういたしまして。じゃあね。」
「うん、ばいばいっ!」
先輩から、ぬいぐるみ二個とお菓子を貰った男の子は、お礼を言ってお辞儀をするお母さんに連れられて帰っていった。