窒息寸前、1秒
「素敵ね。お互いを思いあう気持ち。」
発した言葉とは裏腹に皮肉な笑みを浮かべている由梨子さん。
「俺たちも見習わないとね?」
そんな由梨子さんに、先輩は愉しそうに笑って返す。
二人の間に険悪なムードが漂う。
「姉さん。もう行かないと。」
隆弘も感じ取ったみたい。
「そう。もうそんな時間なのね。」
「早く行かないと。」
「そう、なら行きましょう。」
腕時計を見ながら言う隆弘に、由梨子さんは立ち上がってそう言う。
「邪魔してごめんなさい。」
「孝輔先輩、また。花那、あとで連絡する。」
隆弘も席をたって、ふたり並んで先輩と私を見る。
「あぁ、また。」
「分かった。またね。」
手を振って答える私と先輩に、由梨子さんは笑って
「ふたりも、楽しんでね?」
満足そうに言った。
「いや、俺達は悩みごとの相談でもするよ。俺も花那ちゃんも、悩みの種は一緒だからね。」
先輩はそうやって由梨子さんを見つめて言う。
それは暗に悩みの種は由梨子さん、と言っているのだ。
「そう。じゃあ行くわ。」
由梨子さんは先輩の言っている意味が分かったよう。
少しむっとした表情で、先にお店を出ていってしまった。
「あ、ちょっと。姉さんっ。あ、ふたりともじゃあまた。」
残された隆弘は意味がわからなかったようで、
慌てて追いかけていった。