窒息寸前、1秒



「素敵ね。お互いを思いあう気持ち。」



発した言葉とは裏腹に皮肉な笑みを浮かべている由梨子さん。



「俺たちも見習わないとね?」



そんな由梨子さんに、先輩は愉しそうに笑って返す。



二人の間に険悪なムードが漂う。



「姉さん。もう行かないと。」



隆弘も感じ取ったみたい。




「そう。もうそんな時間なのね。」




「早く行かないと。」




「そう、なら行きましょう。」


腕時計を見ながら言う隆弘に、由梨子さんは立ち上がってそう言う。



「邪魔してごめんなさい。」



「孝輔先輩、また。花那、あとで連絡する。」



隆弘も席をたって、ふたり並んで先輩と私を見る。



「あぁ、また。」



「分かった。またね。」



手を振って答える私と先輩に、由梨子さんは笑って



「ふたりも、楽しんでね?」



満足そうに言った。



「いや、俺達は悩みごとの相談でもするよ。俺も花那ちゃんも、悩みの種は一緒だからね。」




先輩はそうやって由梨子さんを見つめて言う。



それは暗に悩みの種は由梨子さん、と言っているのだ。



「そう。じゃあ行くわ。」



由梨子さんは先輩の言っている意味が分かったよう。



少しむっとした表情で、先にお店を出ていってしまった。



「あ、ちょっと。姉さんっ。あ、ふたりともじゃあまた。」



残された隆弘は意味がわからなかったようで、
慌てて追いかけていった。


< 79 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop