窒息寸前、1秒
「ふー。やっと行ったね。」
「そうですね。」
にこりと笑いかけてくる先輩にちいさく笑い返す。
「さて、仕切り直そうか。まだ、残ってるし。」
「あっはい。」
まだ、手をつけてないスイーツが何個かある。
私が食べ始めた抹茶ワラビ餅を先輩はひょいっと1つとって食べて、
「美味しい。俺も食べよう。」
嬉しそうに笑った。
それから、何事もなかったように、他のケーキを食べ始めた。
私は急なことでびっくりしてフォークを持ったまま、固まってしまった。
あれを無自覚でやってのける先輩は罪作りな人だ。
「花那ちゃん、これ美味しいよ。はい。」
先輩の差し出してくれたお皿から、ケーキを一口とってパクリ。
「…ん、本当だ。美味しいですね。」
「でしょ?」
私の感想に満面の笑みを見せる先輩は、さっきの先輩とは別人のようだ。
そもそも、先輩は由梨子さんにあんなこと言って大丈夫なんだろうか。
なんだかとっても、ふたりの中が婚約者というより敵みたいな、険悪なものに見えてしまった。
それに、抱き締めたりするし。
しかも、それを由梨子さんに見られてしまった。
さっきはそこまで、考えがいかなかったけど、由梨子さんは隆弘に言うかもしれない。
そう思うと、急に不安になってきた。