窒息寸前、1秒



「ふー。やっと行ったね。」




「そうですね。」



にこりと笑いかけてくる先輩にちいさく笑い返す。



「さて、仕切り直そうか。まだ、残ってるし。」



「あっはい。」



まだ、手をつけてないスイーツが何個かある。



私が食べ始めた抹茶ワラビ餅を先輩はひょいっと1つとって食べて、



「美味しい。俺も食べよう。」



嬉しそうに笑った。




それから、何事もなかったように、他のケーキを食べ始めた。




私は急なことでびっくりしてフォークを持ったまま、固まってしまった。



あれを無自覚でやってのける先輩は罪作りな人だ。




「花那ちゃん、これ美味しいよ。はい。」




先輩の差し出してくれたお皿から、ケーキを一口とってパクリ。



「…ん、本当だ。美味しいですね。」



「でしょ?」



私の感想に満面の笑みを見せる先輩は、さっきの先輩とは別人のようだ。



そもそも、先輩は由梨子さんにあんなこと言って大丈夫なんだろうか。



なんだかとっても、ふたりの中が婚約者というより敵みたいな、険悪なものに見えてしまった。



それに、抱き締めたりするし。



しかも、それを由梨子さんに見られてしまった。



さっきはそこまで、考えがいかなかったけど、由梨子さんは隆弘に言うかもしれない。



そう思うと、急に不安になってきた。


< 80 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop