窒息寸前、1秒
「俺はね、由梨子が見てること分かってたよ。」
「は…?なら、どうして…。」
由梨子さんに見られてるのが分かってて、抱き締めたりするなんて。
何でわざわざそんなことするの?
もしかして…。
「先輩も、私と隆弘を別れさせたいんですか?」
「んー…。そうかもね。」
「由梨子さんのために?」
好きな人のために、好きな人の幸せを願って、邪魔な私を隆弘の前から消すために。
そう考えると、体からスッーと熱が奪われていくようにこころが冷たくなる。
「それは違うよ。」
「じゃあ、何で…?」
由梨子さんのためじゃないなら、先輩には何のメリットもない。
先輩の好きな人のはずの由梨子さんにわざわざ他の女との抱擁をみせてまでの目的ってなんなの…?
「自分のためだよ。」
「え…?」
「言ったでしょ。浮気しようって。」
「今、そんなこと話してないです。」
そんな前の冗談みたいなこと、何で今いうのか。
「本気だって言ったら?」
「…っ。信じません。」
急に真剣な顔をして見つめてくる先輩に、動揺が隠せない私。
「そう。でも、俺は手段を選ばないんだよ。自分の目的を達成するためには。」
「目的って…?」
「復讐。由梨子にね。」
「私を使っても復讐になんてなりません。」
「なるよ。十分すぎるくらいにね。」
クツクツと愉しそうに笑う先輩が、信じられない。
信じたくない。
けど…。
「先輩は復讐に利用するために、私に近づいてきたんですね。」
「そうだよ。」
自嘲気味に笑う先輩。
その姿を見て、なぜだか逆に冷静になって。
あぁ。
紛れもない事実なんだ…。
と、突きつけられた。
「最低。」
「だから、言ったでしょ?俺は自分のことしか考えていないって。」