イジワルな彼の甘い罠



「ねぇ、お腹空いたんだけど」



そんな昔のことを思い出しながら、ちら、と横目で航を見てつぶやく。



「そこのテーブルの上にカップ麺ある。勝手に食え」

「30歳の女にこの時間にカップ麺食えとか……食べるけどさ」



一向にこちらに興味を示すことのない航に、私は適当に脱ぎ捨てられていた航のTシャツを着ると、渋々テーブルの上のカップ麺を手に取る。

『大盛りとんこつラーメン』、と書かれたパッケージが、ますます色気ない。




航とそういう関係になったその日から、7年。

普通ならそこから付き合いが始まって、もう結婚しても子供がいてもおかしくない年数。

けれど私と航の間には、そもそも恋人という関係すら生まれていない。


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