イジワルな彼の甘い罠
「……お前、なに泣いて……」
「っ……」
それにはさすがに驚き、航は目を見開く。
その反応に、私は泣き顔を隠すように航の体をぐいっと手で押して離すと、体を起こしバッグを掴み玄関へ向かった。
「おい、早希……」
「帰る」
「待てって」
腕を引き止めるその大きな手。いつもならそれに止められて、きっとうやむやになる。
だけど
『俺には関係ねーけど』
今は、その手を受け入れられない。
「今日は、したくない」
「は……?」
「だから、一緒にいる意味なんてない!帰る!!」
そう隣近所まで聞こえてしまいそうなほど、大きな声をあげ、私は航の家を出た。