イジワルな彼の甘い罠
「お前、それ食ったら帰れよ」
お湯をカップに注いでいる途中、航からの言葉に私はポットのボタンを押す手を止めた。
「は!?いきなり!?」
「俺明日朝早いんだよ。部屋に他人残して家出るの嫌いだから」
「なっ〜…」
そう言っている間にも、見上げた壁の時計の針はもうすぐ23時すぎをさそうとしている。
「じゃあ急がなきゃもう終電の時間じゃん!それならそうって先に言ってよ!!」
「そうだな」
他人事のようにのんきに頷く一方で、私はお湯を入れかけのカップ麺をテーブルに置き、急いで自分のスーツに着替え直す。
「シャツに上着に……あっ!またパンスト伝線してる!する度にパンスト駄目にするのやめてよね!」
「あぁ?そんな破れやすい物履いてる方が悪いんだろうが」
「仕方ないでしょ!」
そう怒りながら、バタバタと荷物を持ち玄関へ走った。