イジワルな彼の甘い罠
……けど、なんて平和な毎日。
急な呼び出しもなければ、夜遅くに帰らされることもない。寝不足もないから仕事もしやすいし、疲れもない。
本来ならこれが普通で、当たり前。
心には、ぽっかりと穴が開いてしまったようだけれど。
そう一人コツコツと靴を鳴らし歩いていると、ひとりの後ろ姿が不意に目に入った。
「あれ……」
シワひとつないスーツ姿に、高い背。背筋を伸ばし歩くその姿から、いとも簡単にそれが誰か想像ついた。
「澤村くん」
「ん?あぁ、早希か」
名前を呼んでみるとやはりそれは澤村くんで、こちらを振り返った彼は少し驚いたように私を見た。