イジワルな彼の甘い罠
「仕事帰り?」
「あぁ。そっちもか」
「うん。お互いこんな時間までお疲れだね」
洒落っ気のないスーツ姿にお互いに小さく笑うと、私は澤村くんの隣に並んで歩く。
「今日は、これから予定でもあるのか?」
「ううん、特には」
今日はハルミは仕事だと言っていたし、他に誰かと約束もしていない。
他に用事も趣味もない独身女のすることといえば、おとなしく帰宅してひとりで夕飯を食べるくらいだ。
「そうか。なら、一緒に飯でもどうだ」
そんな私に告げられたのは、澤村くんからの食事の誘い、という意外なもの。
「へ?いいけど……彼女いるのに大丈夫?」
「あぁ。今夜は友人と食事に行くそうでな。どうせひとりで食事をどうしようかと思っていたところだ」
「いや、そうじゃなくて……」
澤村くんはそういうところは鈍いのか、やや渋る私の言葉の意味がわからなそうに首を傾げる。
「それに、ついでにお前に聞きたいこともあるしな」
「聞きたいこと?」
「あぁ。詳しくは後でだ。行くぞ」
澤村くんはそう言うと、飲食店が並ぶ大きな通りのほうへと向かいスタスタと歩き出す。
まぁ、彼女云々は澤村くんがいいならいいんだけど……。
聞きたいことってなんだろう?
学生時代から変わらない、キビキビとした彼のペースに流されながら、その後ろをついて歩いた。