イジワルな彼の甘い罠
『付き合ってた』、そう自ら口にした言葉に、胸がまたチクリと痛んだ。
「ほら、澤村くんの仕事手伝ってるって言ってたじゃない?多分その、下着のモデルの金髪の女の子」
思い浮かべる、あの写真の中の微笑む彼女の表情は、柔らかくかわいらしいもの。
それは、愛しい人の前でしか見せないような。
そんな表情を見せる彼女と、表情を引き出すことが出来る航。
何度私が航とつながろうと、ふたりをつなぐものに勝てることなどないだろう。
「その子とホテル入って行くの見たし……ファイルに写真も入れて持ち歩いてた」
「考えすぎじゃなくてか?モデルの写真くらい持ち歩くだろう」
「けど黄色いクリアファイルにしっかり入れてさ、触っただけで『触るな!!』って怒るくらい大事にしてたし」
ボソ、と言う私に、彼は少しなにかを考えたかと思うと、ふっと笑いながらグラスの中のお酒をひと口飲む。
「なに?いきなり笑ったりして」
「いや、お前も航も面白いと思ってな。見ているこっちがじれったい」
へ?面白い?じれったい?
意味がわからずきょとんとする私に、澤村くんはそれ以上の意味を教えてくれることはない。
「それで、本当に終わりでいいのか?」
メガネ越しにこっちを見る瞳に、私は目線を下に向けグラスをテーブルに置いた。