イジワルな彼の甘い罠
「……うん。もういっそ、お見合いでもしてスッパリ忘れちゃおうかなって思って」
「お見合い?」
「前々から親には急かされててさ、私もこれを機に結婚とか本気で考えなきゃーって」
それまでの重い空気を吹き飛ばすように、あははっと笑いながら言うと、言い訳をするかのように饒舌になってしまう。
「近所の人の紹介で、今度の日曜に実家の近くで会う約束してて。日本料亭で、なんていかにもお見合いって感じだよね」
けれど、そんな私の本音など分かり切ってしまっているのか、黒い瞳はこちらを見つめたまま。
「……そうか、なら頑張れ。お前の望む形にまとまるようにな」
その薄い唇は、そう意味深につぶやいた。
私の、望む形は
平穏な毎日。最低じゃない人との、結婚。
きちんと、愛し愛される関係。
「……うん、」