イジワルな彼の甘い罠
一度控え室に向かうモデルを横目で見て、俺はカメラを置くとスタジオの外に設置された灰皿の元へと歩いていく。
スタジオ内はもちろん禁煙。
寒い時期も暑い時期も、外に出て吸うしかない。喫煙者は相変わらず肩身の狭い立場だと思う
遠野航、30。職業はフリーのカメラマン。
学生の頃から独学でカメラを学び、数年かけてコネと契約を必死に集め、ようやくこれ一本で飯を食っていけるようになった。
趣味はカメラ、特技もカメラ、つまらない奴だと自分でも思う。
朝早くからの時もあれば、夜通しの時もあるという、不規則な仕事中心の毎日。そんな生活なものだから、独身どころか彼女もいない。
……彼女“は”いない、か。
それでも日々が満たされていたのは、きっとその存在があったから。