イジワルな彼の甘い罠
「なんだよ。お前も一服?」
いつもなら『匂いがつくから』とここには近づかない奴が、めずらしく自分から来るものだから、めずらしさにからかうように言えば玲二は静かに首を横に振る。
「いや、俺は吸わない」
「あー、お前高校の頃試しに一回煙草吸って、咳き込むはそのまま吐くわで大騒ぎだったもんな」
「あれはそもそもお前が無理矢理吸わせたんだろう」
「吸ってみろって言われてそそのかされるお前も大概だよ」
ふん、と鼻で笑う俺に、いつもなら玲二は眉一つ動かさずにいるだろう。けれど今日の玲二は、不意にふっと笑い出す。
「なんだよ?」
その反応が意外すぎて、なにかあったのかと聞かずにはいられない。
「いや、面白い噂を聞いたものでな……お前、金髪美女と付き合っているらしいな」
「は!?」
突然のその言葉に驚き煙草を落とす俺に、玲二は磨かれた革靴で煙草の火を消し吸殻を拾う。