イジワルな彼の甘い罠



これなら航の方がよっぽどマシ……って私、また航のこと考えてるし。



考えない、考えない。

そう思えば思うほど、また記憶の中に浮かぶ横顔。

街なかであの匂いが香るだけで振り向いてしまう自分は、相当深いところまでハマってしまっていたのだと知る。



「失礼します」



すると、不意に襖を開けやってきたのはスーツ姿の男性。

私より少し年上だろうか、黒髪に短髪、きっちりと締めた青いネクタイという、爽やかな見た目のその人は、綺麗な正座で小さく頭を下げる。



「……お母さん、この人誰?」

「ここの長男で跡継ぎ息子よ。いい男よねぇ」



小声で問う私に母はボソボソと答える。

そんな私たちの会話が聞こえたのか、いないのか、彼はこちらへ笑顔を向けると、食事を続けている相手……多岐川さんにも笑顔を向けた。




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