イジワルな彼の甘い罠



本当はわかってる。

きちんと結婚の話も詰めて、お互い落ち着かなければならないこと。

少なくとも早希もそれを望んではいて、自分自身に覚悟もあること。



ただあとひとつ足りないのは、改めて気持ちを伝える勇気だ。





いや、でもだからって浮気はないだろ……ないよな?いや、でも……。



青田と別れ、頭をぐるぐるとさせながら帰ってきた自宅は、以前俺が住んでいた古く汚いアパートとは真逆の、綺麗な外壁のまだ新しいマンション。

『あの部屋より綺麗で広いならなんでもいい』との早希のひと言ですぐ決めた部屋だ。


外から部屋を見上げれば、時刻は22時すぎだというのに家の電気はまだついていない。

また残業か?そう思いながら家へ入れば、玄関には脱ぎっぱなしの黒いパンプスが散らかっている。



「……早希?帰ってるのか?」



テレビの音すらも聞こえないけれど、靴があるということは帰宅しているのだろう。

声をかけながら部屋の電気をつけ家にあがり、リビングのドアを開けた。



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