イジワルな彼の甘い罠
「待って、せめてシャワーくらい……」
手でその体を軽く押しのけようとすると、航は私の首筋に顔をうずめ、くん、と匂いを嗅いだ。
「あぁ、臭いな。……ハルミの香水の匂いが、プンプンする」
「え……?ひゃっ、」
ぼそ、とつぶやきながらも、その手は止められることなく、服を脱がせ肌に触れる。
「っ、……」
指先が、唇が、触れるだけで全身を隅々まで熱くする。
鼓動が大きくなる耳の奥に、響くのは先程のハルミの言葉。
『本気じゃない恋愛は、互いを駄目にするだけよ』
ハルミの言葉の通り、無責任でいい加減に行為を繰り返す私とこいつは、互いに駄目になっていってるのかもしれない。
いつ終わるかわからない、ある日ぱったり連絡が来なくなるかもしれない。
不安定で不確かなふたり。
「……わた、るっ……」
「……んな顔してみせたって、まだ終わらせねーよ」
「そう、いわれても……んっ、」
全身で感じる彼のぬくもりに、脳内まで溶けてしまいそうだ。
確かなものなんてない。約束された未来もない。
それでも、いいの。
今この手の中に、その姿ひとつがあるのなら。
それだけ、で。