イジワルな彼の甘い罠
そいつは、最低な男。
週に1度……もしくは2度、気が向けばメール1通で呼び出される。
時間と場所だけしか書いていないような、すごく簡潔な文章で。
最初はその気まぐれさや、文の短さに思うものもあったけれど、今ではもう気にもならない。
会社のある新宿から電車に30分ほど揺られ、着いた駅からさらに20分の道を歩く。
やってきたのは、茶色い2階建ての小さな古びたアパート。そこの1階、右から3つ目のドアの『103・遠野』と書かれた部屋
鍵もチェーンもかけられていない不用心なその部屋に、私はチャイムを鳴らすことすらなくガチャリとドアを開けた。
「おう、来たか」
「……うん、来た」
ドアの先に広がる、1LDKの狭い部屋。
洒落っ気も、清潔感も高級感もない。あるのはただただ“独身男の一人暮らし”といった様子の生活感だけ。
その部屋の壁際に置かれたベッド脇に座り込み、高そうなカメラをいじるのは顎に無精髭を生やした男。
伸ばしたままの黒い髪、いたるところに物が置きっ放しで、脱いだ服すらそのままの、散らかった部屋。
そこから感じる印象は、毎度の如く『だらしない』の一言に尽きる。