イジワルな彼の甘い罠
『ひどい女ー、どうせまた仕事仕事で頭になかったんでしょ』
「す、すみません……」
『明日13時からの挙式で、披露宴はないらしいから。忘れずにね!』
時間の確認と、そもそも私が覚えているかの確認も含めての電話だったらしく、昔からしっかりとしている美緒はそう伝えると電話を切った。
そっか、明日か……。
結婚式、ねぇ。他にも中学の同級生とか何人か来るんだろうな。
でも皆、結婚して旦那や子供いる人ばっかりなんだよね。そういえば美緒も、確か彼氏と年内に結婚するんだっけ。
祝いたい気持ちはあれど、独り身で予定もない私には少し気が重い。
「……はぁ、」
スマートフォンをバッグにしまいながら隣を見れば、今だぐっすりと眠るその顔。
……いいよねぇ、こいつは本能に忠実で。
結婚とか、子供とか、そんなことは微塵も考えていないんだろうな。
その子供のような寝顔がなんだか腹立たしく、指で鼻をぎゅっとつまむと、「ふがっ」とマヌケな声がした。