イジワルな彼の甘い罠
「あー、スーツうぜえ。窮屈」
席について早々、航はスーツの上着を脱ぎ、邪魔そうにシャツの袖をまくる。
「……航、スーツなんて持ってたんだ」
「当然だろ。社会人だぞ」
「いや、だって見たことないし」
先ほど私が引っ張ったことで締まったネクタイを緩める航を横目で見ながら、私は店員から出されたおしぼりで手を拭いた。
「結婚式の撮影の時はさすがにこの格好なんだよ。いつもの格好で行ったら次から仕事貰えなくなんだろうが」
「いつもの自分がだらしない格好してるって自覚はあるのね」
嫌味っぽく言って出された水を一口飲むと、グラスの中の氷がカランと音を立てた。