イジワルな彼の甘い罠
……怖かった。
ううん、今もまだ、怖い。
「わたる……」
声が聞きたい。
安心を、ちょうだい
すがるような気持ちで、まだ力が入らないままの体を引きずるように、ゆっくりとベッド脇に向かう。
そこに置かれていたバッグから取り出した、スマートフォン。
けれど、そのアドレス帳に入っているのは『航』の名前と短いアドレスひとつのみだった。
「そういえば、番号知らないんだっけ……」
ならばせめてメールだけでも、そうメール画面を開きかけて気付く。
どんなメールを、送ればいい?
なんて言って、なんて答えを貰いたい?
無視されたらどうしよう。
今のことを伝えて、『だからなんだよ』って言われたらどうしよう。
頭の中は不安な気持ちで埋め尽くされる。