いとしいこどもたちに祝福を【前編】
何せ二人が秦を呼称する際の三人称は“あの馬鹿”が基本だ。

「…やっぱりあいつ、晴が一人になるのを狙ってるのか。俺も晴の家にいるとき、あいつが頻繁に彷徨(うろつ)いてる気配には気付いてたよ」

「流石にあの馬鹿も家の中までは押し入って来ないだろうけど、家に一人のときなんかは充分気を付けて。ね?」

「う、うん…」

今は陸がいないため、仄が仕事へ出ると自宅で独りになってしまう――秦のことがなくても、それが少し心細い。

陸と出逢う以前は、独りでも母の帰りを待っている時間を寂しいだなんて全然感じなかったのに。

「…俺、早く晴の家に戻れないか先生に訊いてみる。傷を診て貰うだけなら俺が此処に通えば済むんだし」

すると陸が、そんな晴海の胸中を見透かしたかのような言葉をふと口にした。

「でも陸、うちと晴海の家って案外距離があるよ?足、大丈夫なの?」

「痛みはまだ引かないけど、筋を捻ったり骨折してる訳じゃないし。それに晴と離れてる間に、また月虹から追手が来やしないか不安なんだ」

すると夕夏は、少し考え込むように腕を組んで眉根を寄せた。

結局自分は陸の力になるどころか、負担ばかり掛けている――そう感じて晴海はこそりと小さく溜め息を落とした。

「うん…そうだね、だったら私から暁に相談してみるよ」

そうだ、もし天地から帰宅許可が下りたら前に陸が好きだと言っていた料理を色々作ってあげよう。

陸は相変わらず食が細いらしく、その少食振りに夕夏が困っているようだし、せめて食事のことだけでも自分が気を付けてあげよう。

――それに、今までよりもっと沢山、陸と話をしたい。

今まで訊けなかった陸のことを、訊きたい。

そうすることで少しでも陸の不安を取り除くことが出来れば、多少は役に立てたと言えそうだ。
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