いとしいこどもたちに祝福を【前編】
しかし再び意識を傾けてみても、もう何も聞こえない。

もしかして、家の中だから聞こえ難(にく)いのだろうか。

余り一人で家の外を出歩くなとは言われているが――軒先までくらいなら。

何も一人で長時間出歩くのではない、様子を見てすぐ家の中へ戻れば大丈夫だろう。

皆からの忠告を甘く見ている訳ではないが、何故かやけにあの呼び声が気に掛かってならないのだ。

――そろりと玄関の扉を開いてみるも、周辺には不審な人影は特に見当たらない。

「…大丈夫、かな」

玄関から数歩進み出て、周囲の物音に耳を澄ませてみる。

だが、鳥の囀(さえず)りや風が吹き抜ける音以外、特に何も聞こえなかった。

(やっぱり気のせい、かな…)

暫くその場に佇んでいたが諦めて家の中に戻ろうとした瞬間、突如背後から誰かに腕を掴まれた。

「きゃっ!?」

「――やっと一人になったな、晴海」

引き寄せられた後方へそのままよろめくと、声の主の腕の中に抱き込まれる。

聞き覚えのある低い声に囁かれ、反射的に身が固くなる。

同時に、己の行動の浅はかさを後悔した。

「秦…!!」

耳元で、腕の主が愉しげに笑う。
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