いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「そうか…」

肉親が見守る中での、この行為はなかなか気恥ずかしいのだが今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。

意を決して晴海に向き直ると、陸は深く息を吸い込んでそれを晴海の口に吹き入れてやった。

触れた唇は、撫でた頬と同様に冷たかった。

(晴…!お願いだ、気が付いてくれ…!)

そう祈りながら同じ動作を繰り返すも、晴海は一向に反応を示さない。

「晴…!!」

それでも繰り返した、何度目かの行為の直後――晴海が急に咳き込み出した。

「!」

「姉ちゃんっ」

その弾みに飲み込んでいた水を吐き出し、蒼白だった顔色にも少しずつ赤みが差し始める。

「良かったっ…風弓、これなら直に目を覚ますよ」

そう告げると、風弓は漸く落ち着きを取り戻したらしく大きな溜め息をついた。

意識はまだ戻らないが、荒々しかった呼吸も次第に落ち着き始めている。

「ほんとに良かった、姉ちゃん…」

――しかし、こうして二人を見比べてみると眼の色彩こそ異なるが晴海と風弓は良く似ている。

どちらかと言えば眼の色と同じく晴海が母親似、風弓が父親似か。

そして、姉を案じる弟の想いが洗脳に打ち勝ったのか――風弓の瞳から既に敵意は消え去っていた。
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