いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「何がだ?」

「…晴を、月虹の件に巻き込んでしまったこと…それに俺だけ月虹から逃げてしまったこと」

ずっと心の奥底に引っ掛かっていた――

あの人が、たった一度しかないであろう機会を使って、息子の風弓ではなく自分を逃してくれたこと。

家族の記憶を持たない自分より、家族を案じながら月虹で過ごす風弓のほうが仄や晴海に逢いたかっただろうに。

「親父は月虹の内部事情について良く話してくれたが、お前に関することは余り話さなかった。周りに発言を監視されてたのかも知れないけどな」

「……」

「だから親父にどんな思惑があったのかは知らない。けどお前じゃなきゃ多分、駄目な理由があるんだろ」

(彼は俺に何か、させたかったのか…?)

別れ際にそれを訊くことは叶わず、今となってはそれを知る術もない。

一体、自分はどうすれば良いのだろう。

「風弓、俺…」

「……姉ちゃんは昔からすげー寂しがりだったから。傍にいてやってくれ、な?親父と…俺の代わりにさ」

「…!月虹に戻るのか?でも、もうお前があの場所に縛られる理由はっ…」

今まで才臥父子が月虹から逃げられなかったのは、互いの命を握られていたからではないのか。

ならばせめて風弓だけでも、月虹から解放されて家族と共に生きて欲しいのに。

「あるんだよ、陸。俺は…どうしても戻らなきゃならないんだ」

「何でだ!何処の誰かも解らない俺より、お前が晴の傍にいてやるべきじゃないか!!」
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