いとしいこどもたちに祝福を【前編】
――結局「女装しても髪色が同じならどうせ目立つ」と賢夜に突っ込まれ、漸く夕夏は変装を諦めてくれた。

せめて眼の色だけでもごまかそうという日野からの提案を受けて、陸は彼から伊達眼鏡を借りていた。

色は入っていないため気休めに過ぎないが、一応かけておくと言い眼鏡を取りに船内へ戻った陸の背に、晴海は声を掛けた。

「…眼鏡、似合うね」

「晴」

少し疲れた面持ちで息をついた陸は、長椅子に座りながら眼鏡越しにふとこちらを見上げた。

その表情を見て、先程助け船を出すのを遅らせたことに対して少し罪悪感が募る。

「ぁ、あのね陸。さっきすぐ助けなかったこと…怒ってる?」

恐る恐るそのことを訊ねてみると、陸は首を傾げて眼を瞬いた後にくすりと笑った。

「怒ってないよ」

「…良かった」

きっと陸は、怒っていたとしても同じように答えたかも知れないが――そう言ってくれたことに安堵する。

「俺も楽しかったんだ。勿論女装は勘弁だけど。もし兄弟がいたら、あんな感じなのかな。一緒に騒いだり笑ったり、喧嘩したりするのかな」

確かに、あの二人と一緒にいるとそんな風に感じることは多い。

まだ見ぬ陸の家族には、兄弟はいるのだろうか。

「!そういえば」

「ん?」

兄弟、と言えば――
< 203 / 367 >

この作品をシェア

pagetop