いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「…寝、ちゃった」

言葉通り相当疲れていたようで、掛けたままの眼鏡を外しても全く起きない。

眠っている陸の顔を眺めるのは初めてではないが、こんな間近で見るのは初めてだ。

「陸…」

心情の変化のせいか、それとも以前言っていた“夢”をあまり見なくなったからか。

これまで見た寝顔の中で今が一番、穏やかで幼く見える。

目を覚まさないのをいいことに、湿布や絆創膏だらけの頬にそっと触れた。

「また怪我、増えちゃったね…」

傷や痛みを半分でも、ほんの少しでも代わってあげられればいいのに。

長い睫毛を軽く撫でて、鼻梁に掛かる前髪を耳元に掛ける。

「…何なのかな、これ」

陸の耳朶や耳殻には左に三つ・右に二つ――合わせて五つの耳飾りが着けてある。

髪を切ったとき、初めてこの飾りを見付けて何なのか訊ねてみたのだが、陸本人も良く解らないと言っていた。

月虹の人間に施された訳ではないらしく、容易には外せない仕組みになっているらしい。

もしこれが月虹に連れ去られるより以前から身に付けているもの、だとすれば。

「家族を捜す手掛かりに、なるかなあ…」

炎夏では、耳飾りは男女問わず自身を飾る手段として広く愛好されている。

国によって風習や愛好する性別が異なるため、春雷でどの程度普及しているかにも依る――あまり頼りにはならないだろうか。
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