いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「…迷子の、陸くん」

ふと、陸が頻繁に見ていたというあの夢の内容を思い出す。

闇に呑まれて怯えている少年は、怖くて泣いていたかも知れない。

「貴方のおとうさんとおかあさんは、どこにいるのかな…」

その少年に手を差し伸べて、闇の中から救い出してあげたい。

「もうすぐ、だから。待ってて…」

静かに寝息を立てる唇に指先で触れてから、晴海はそれに軽く口づけた。

「ん…」

――陸は小さく声を上げたが、目は覚まさなかった。

すぐに身を離して、高鳴る胸を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。

「っ……今のうち、だけ」

そして、誰に言い訳をするでもなく呟きながら、陸の傍に身を寄せた。

「そばに、いさせて」

そのまま急速に訪れた睡魔に身を委ねて、晴海も眠りに落ちていった。





脱出の遑(いとま)の平穏 終.
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