いとしいこどもたちに祝福を【前編】
――港を後にして春雷の市街地に入ると、非常に多くの人々が往来していた。

「わあ…人がいっぱい」

炎夏もこの夕暮れ時はそれなりに賑やかだが、その比ではない。

何か催し物でもあるのかという程に、街道が沢山の人で溢れている。

「春雷は治安も気候も住み易い国だから、移民が多いんだよ。みんな、はぐれないように気を付けてね」

夕夏は背が低い分、はぐれたら探すのは大変そうだと思ってしまった。

「晴」

ふと名を呼ばれて振り向くと、陸の手に手を掴まれた。

「…!」

手を繋いだのは初めてではないのに、思わずどきりとしてしまう。

陸は日野から借りた眼鏡と賢夜から借りた上着の帽子を被っているため、髪と眼の色彩は 然程目立たなくなった。

寧ろ今は、他より少し上背の賢夜のほうが目立っている。

「まずは闇雲に歩き回るより、今日の滞在先を決めたほうが良さそうだね。陸は足が痛むだろうし」

「夕夏、ごめん…」

気を遣わせたと思ってか陸がそう口にすると、夕夏は苦笑しながら陸に向き直った。

「こういうときはごめんより有難う、って言うんだよ。そのほうが言った側も言われた側も、嬉しいだろ?」

夕夏に軽く肘で小突かれ、陸は少し面食らったように目を丸くしたが、その後にふと笑顔を見せた。

「…うん。有難う、夕夏」
< 221 / 367 >

この作品をシェア

pagetop