いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「はい、よろしい。そういや前に来たとき泊まったとこ、なかなか良かったから其処当たってみようか」

「あっ、あの…夕夏、私も陸もあんまり持ち合わせ…ないんだけど……お金、大丈夫?」

何せあまり家を出るとき時間がなかったので、大した準備も出来なかったのだ。

「ああ、その点は気にしないで。暁伝てに仄さんから預かってるし、うちの家長も仕事柄なかなか稼いでるから」

「そ…そうなんだ」

(お医者様って儲かるんだ…?)

父も秋雨で町医者を営んでいたが、その頃の暮らしも大して裕福とは言えなかった。

今思えば、単に父がお人好しで治療費を請求するのが得意でなかっただけなのだが――

そのためか、てっきり医師という仕事は、儲からないものなのだと思っていた。

そういえばそのことで、父は頻繁に母から良く怒られていたような。

「――あ、此処だ此処」

ふと先を歩いていた夕夏たちが大きな建物の前で足を止めた。

「部屋が空いてるか聞いてくるから、三人は待ってて」

宿の玄関広間に待たせて、夕夏は受付へと向かった。

すぐ傍には居酒屋が併設されており、中は非常に賑やかな様子だった。

「…すごく、おさけくさいね」

「晴、大丈夫か?」

「うっ…うん…ちょっと苦手な、だけ」
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