いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「あの人、銀髪だったね。でも、あんまり綺麗じゃなかった」

「多分あれは地毛じゃないな、鬘(かつら)か染髪だよ。自前の銀髪はもっと陸みたいに澄んでる筈だ」

成程、人工的だからあんな濁った色なのか。

「…なんか遠回しに誉められると照れ臭いな」

「じゃあ直球で誉めてやろうか」

「いや、やめて…」

「何遊んでんの?部屋、取れたよ」

戻ってきた夕夏に半ば本気でどつかれた賢夜だったが、然して気にもせず姉に相槌を打った。

「ああ…俺って姉さんと一緒のがいいのか?」

「えっ」

「私が嫌だよ、馬鹿弟が。私は晴海と一緒。賢と陸は隣の部屋」

――賢夜も気を遣ってくれたのだろうが、同じ寝室に陸と二人きりなんてきっと緊張して耐えられない。

「みんな船旅で疲れてるだろうからさ。今日は早目に休んで、また明日予定を考えようか」

「うん、そうだね」

結局、夕夏は船の中では一睡もしていない――眠れない日野に付き合って起きていたのだろう。

それを一切、表情に出さないで尚且つ周囲を気遣うなんて。

部屋に行ったら、夕夏を労ってあげよう。


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