いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「――二人共、遅いなあ…」

翌朝、一階の広間で落ち合う予定なのに、陸と賢夜はなかなか現れなかった。

すると夕夏が、頭を軽く押さえてしまった、と呟いた。

「多分、賢の奴が起きなくて陸も困ってるんだ」

「あああ…」

――すると夜は居酒屋になっていた食堂のほうから、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「何だ何だ?」

「あの、何かあったんですか?」

近くにいた女性従業員に声を掛けると、女性は少し困ったように口を開いた。

「あ、実は……行方不明中だった領主様のご子息様が戻って来られた、とかで。その方が今あちらにいらっしゃるんですよ」

行方不明の、領主様の息子――

「領主子息が行方不明?そんな話、初耳だけどなあ」

訝しむ夕夏に、従業員は苦笑を浮かべながら言葉を続けた。

「あまり他国へ公にはしてないんですよ。けど他国の方でも、何処からか話を聞き付けている人がいるようなんです」

「で、その行方不明のご子息様が何で此処にいるのさ?」

「それがここ数年、自分がご子息様だと名乗りを上げる者が何度も出ておりまして…」

「成程。金目当ての偽物か」

「それで今、確認のために領主邸から使いの方が到着するのをお待ちしているところなんです」
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