いとしいこどもたちに祝福を【前編】
確かにそんな大きな部屋ではないのかも知れないが、陸にはとても広く感じる。

陽が射して、風が通り抜けているだけで、今まで自分が身を置いていたあの場所と、こうまで違うのかと思った。

「肩の傷、晴がやってくれたの?」

その問いに、晴海は少しばつが悪そうに首を振った。

「…知り合いのお医者様に来て貰ったの。私にやらせてなんて言ったくせに、ごめんね」

「ううん。それ以外にも、君が色々俺の世話をしてくれてたんだろ?」

晴海が手にしている衣類は、恐らく自分の新しい着替え等を持って来てくれたものだろう。

今現在に至るまで、彼女に世話をかけていることに変わりはない。

「有難う。俺、やっぱり君に迷惑かけてるな」

「迷惑だなんて…私、陸が助けてくれて嬉しかった。あのとき…凄く恐かったから」

「…あいつ、いつも晴に付き纏ってくるのか」

秦という男の、晴海に対する言動は許し難いものばかりだった。

妙に彼女を振り向かせることに執着しているようだが。

ああいった強引なやり方で、他人の意志を捩じ伏せる人間は許せなかった。

あんな横柄な男に気に入られるなど、さぞ難儀だろうと思う。

「うん…でも、秦はこの国じゃ誰に対してもあんな感じ。領主様の息子だからって、何でも自分の思い通りにならないと気が済まないの」

秦なんて大嫌い、と晴海は小さく呟きながら俯いた。

「だから、陸が秦を追い払ってくれて…本当はこんなこと思っちゃいけないけど、凄く胸がすっきりしちゃった」

去り際の情けない秦の姿を思い出したのか、晴海はくすりと笑みを零した。
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