いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「あい、り…」

初めて耳にする名に、陸が困惑したように視線を泳がせた。

「僕らの、母さんのことだよ」

すると二人の遣り取りを静観していた京が、不意に口を開いた。

その一言に、陸は再び俯いてしまった。

「心配いらないよ。愛梨はお前を困らせるようなことはしない」

そう告げて陸の頭を一撫ですると、周は返答を待たずに部屋から出ていってしまった。

「……っ」

陸はその場から微動だにせず、苦しげに息を飲んだ。

傍らの京は、そんな陸の姿を黙って見守っている。

晴海は、どうすればいいのか考えあぐねたが――意を決して陸の背に手を触れた。

「晴…」

「行っておいでよ、陸。家族に逢いたいって、私にそう言ってくれたじゃない」

「でも、俺は……」

「陸の姿は、つくりものなんかじゃないよ。前にもそう言ったでしょ?早く、お母さんのところに行ってあげて」

諭すように言葉を紡ぐと、陸はまだ少し戸惑いがちではあった立ち上がった。

「……うん」

そして、短く頷いてから周の後を急いで追った。
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