いとしいこどもたちに祝福を【前編】
――その女性は、華奢な身体を大きな寝台に預けて静かに眠っていた。

女性の顔立ちは、驚く程自分と良く似ている。

それに、髪の色も肌の白さも。

眼の色だけは、瞼が伏せられているため判らないが。

そして陸はこの女性を目前にした瞬間、不思議と胸が高鳴って落ち着かない気分に陥った。

(なんだろう、この気持ちは)

この女性が自分の母だと、言葉にして告げられなくても今は素直に受け入れられるような――

記憶の有無だとか、容姿が似ているだとか、そういうことではない。

その感覚は目に見えず、根拠もない不確かなものの筈なのに、とても確固たるものに思えた。

周が言った“父親の勘”というものは、これと似たような感覚なのだろうか。

「ただいま、愛梨。ああ…今日は本当に機嫌が良さそうだ」

周はいとおしげに頬を撫でたが、愛梨が目を覚ます気配はない。

呼吸をしていることを除けば、まるで精巧に造られた人形が寝かされているかのようだ。

「…あの」

「ん?」

「周、さん…」

そう声を掛けると、周は少し寂しそうに笑った。

だが、その呼び方以外を使う気にはなれなかった。
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