いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「そのひとは…」

「愛梨は眠ってるだけだよ。ただ、ずっと目を覚まさない」

ずっと。

「…いつから、ですか?」

「陸が行方知れずになった少しあと、だな。陸を失った愛梨は憔悴し切ってて、ある日突然倒れたんだ。それから一度も意識が戻らない」

周は愛梨の細い手を持ち上げて、両手で包み込むように優しく握り締めた。

それなら愛梨は、四年間ずっと眠り続けていることになる。

ある日突然息子が失踪し、妻も倒れて目覚めない――

周や京の心中を想うと、非常に居たたまれない気持ちに陥った。

もしも自分が彼らの家族だとしたら、彼らを喜ばせてあげられるのに。

「目を覚まさないこと以外は、何の異常もないんだ。何が原因かも解らない。医師からは 精神的なものじゃないかと言われてるけどな」

尽くせる手立ては全て尽くした――周の言葉からはそういった想いが伝わってきた。

「…何故、いつも俺じゃないんだろうな」

「え…っ」

周の声色は明るく努めようとしているようだが、妙にぎこちなかった。

「俺は四年前、陸を守ってやれなかった。きっとこれはそのときの罰だ」

「!そんなことは」

「忘れもしない、四年前。俺は陸のすぐ傍にいたのに、ほんの一瞬気を逸らした隙に陸はいなくなった。いや…攫われたと言うほうが正しいのか」
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