いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「母さん」

晴海に母と呼ばれた女性は、こちらへ歩み寄ると娘の頭を軽く撫でた。

「陸、だっけ?眠ってるあんたの顔はよく見てたから、初めましてって言うのも何か変な感じだけど。あたしは晴の母親で、仄(しき)っていうんだ」

「仄さん、すみません…俺、貴方たちに迷惑をかけてしまって」

「気にしなくていいよ、晴は昔からよく怪我した動物を拾ってきたりするんでね。まあ、流石に人間拾ったのは初めてだったけど」

「母さんったらっ」

けらけらと笑う仄の腕を、晴海が恥ずかしそうに引っ張る。

何だか控えめで大人しいな晴海に比べて、随分と賑やかで明るい人だと感じた。

「そりゃ、この子に呼ばれて駆けつけたら血塗れのあんたを抱えてたから流石に驚いたよ。あんなに具合悪そうだったのに、随分元気になったようで何よりだ。相変わらず色は白いみたいだけど」

不意に仄の掌が頭に置かれ、髪をわしわしと掻き混ぜられる。

「わ、ぁ、あのっ…」

その様子に、傍らの晴海がくすりと笑みを零した。

幼い子供のような扱いをされたようで、何だかちょっと照れ臭い。

「領主の馬鹿息子からうちの晴を守ってくれたんだろ?あれの対処にはあたしも困り果ててたんだけど、お陰で少しは大人しくなるでしょ。陸、有難うね」

「あ…っはい」

仄はそのまま陸の頭を軽く叩きながら、柔らかい笑みを浮かべた。

ああ、笑った顔が晴海と良く似ている。

「ところで陸。あんた、どう見てもこの街の住民じゃなさそうだけど、これから何処か行く宛てはあるの?」
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