いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「あれ、陸は?」

食堂に着いた瞬間、夕夏が声を上げた。

そこには賢夜と京の姿はあるものの、陸の姿がなかった。

「陸は母さんのところだよ。父さんも一緒」

そういえば、陸の母――愛梨は昨日から全く姿を見せてない。

陸は周と共に逢いに行ったが、京は彼女の話の途中で口籠ってしまったし、昨夜の夕食時にも姿はなかった。

「そういえば京さん、愛梨さんは?」

訊ねづらいなぁ、なんて思っていた矢先に夕夏がそう訊ねてしまっていた。

触れないほうが良い話題なのかと思っていたが、京は予想外にも微笑んで答えた。

「ああ…ごめん、話してなかったね。母さんはずっと眠ってるんだ、陸がいなくなった後から」

「え…っ」

「原因不明、だけど…陸も戻ってきたんだし、きっともうすぐ目を覚ましてくれる」

そう言った京は笑っていたが、少し寂しげに俯いた。

「そのときはみんなにも母さんを紹介するよ。陸は母さんにそっくりだから、みんな驚くんじゃないかな」

だが再び顔を上げたときには、いつも以上に嬉しげに笑顔を浮かべた。

こんな無邪気な笑みを見せる程、京は愛梨を慕っているのか。

きっと彼女は、京と陸を分け隔てなく育てていたのだろう。

(愛梨さん…どんな人だろう、いつか逢ってみたいな)
< 276 / 367 >

この作品をシェア

pagetop