いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「――おはよう、晴」

不意に背にしていた廊下から現れた陸に声を掛けられ、飛び上がる程驚いた。

「ぉっ…おはょ…」

不自然に思われないよう、極力落ち着いて返事をしたつもりだったが、動悸が全く治まらない。

顔が真っ赤になったりしてないだろうか。

「?晴、どうしたの」

「ううん…」

駄目だ――顔を上げようとしたが、やはり陸の顔がまともに見れない。

「ぁっ、あのね陸、今日…夕夏と賢夜と一緒に買い物に行くんだけどっ」

動揺しているのを悟られないよう、必死で話題を探す。

「そっか。楽しんでおいで」

しかしその言葉に、そわそわと泳がせていた視線をふと陸に向けた。

「……陸も、一緒に行かない?」

「俺は、行けない。ごめん」

どうして、と訊ね掛けてはっとした。

陸は、この国の領主子息――しかもつい昨日まで行方不明だった身だ。

そんな陸が帰ってきて早々、街を歩き回っているのは確かにおかしいかも知れない。

「…実は、俺が帰ってきたことはまだ公表しないことにしたんだ」
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