いとしいこどもたちに祝福を【前編】
雪乃は乱れた前髪を指先で整えながら、大きく溜め息をついた。

「あたしはもう帰るねぇ、四対一なんて無理だし。それじゃあ陸、弱くなっちゃったから塔まで辿り着けるか判らないけど…また月虹で逢おうね?」

雪乃はそう言い残して雷光と共に姿を消した。

次の瞬間、賢夜の手に強引に肩を掴まれ振り向かせられる。

「陸…っ晴海が誰の娘で、誰と双子だってっ?」

「…賢夜」

「彼女は能力者なのか?月虹には彼女の肉親もいる、のか?何故、君は彼女自身すら知らないことを知ってて今まで黙ってたっ?!」

「賢っ…」

平時の彼からは想像もつかない程の剣幕で、賢夜に詰問される。

「陸、もし君が話しててくれれば、彼女が狙われる可能性があるんだったら、俺は晴海を一人になんかしなかった!!」

その言葉に何も反論出来ず、思わず黙り込む。

すると、賢夜の怒号に怯えた里砂が泣き出してしまった。

「里砂ちゃん…僕と行こう、お母さんが待ってる」

京は心配げにこちらへ一瞥をくれながら、里砂を連れて邸に向かった。

「…っすまない賢夜、夕夏。俺はとても大事なことを、炎夏で話せなかったんだ。だから…言い訳に聞こえるだろうけど、今日はそのことを晴に話すつもりだった」

「…何で、今までずっと話してくれなかったの?」

夕夏が遠慮がちに訊ねる。

「月虹にいる晴の家族が、それを望んでなかった。だけど俺が晴を巻き込んでしまったから…一度、炎夏にいるときにも話そうと思った。でも…」
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