いとしいこどもたちに祝福を【前編】
男が手を翳すと、目前の光の中に映る景色が入れ替わり陸と夕夏と賢夜が、塔へ向かって走る姿が映し出された。

「みんな…!」

「まだ他の奴には負けちゃいないみたいだが…さて、どうかな」

「どうして…?何で其処までして陸を捕まえようとするのっ!?陸はやっと、家族の元に戻れたのに…っ」

晴海が憤りを露に叫ぶと、男は低い声で囁いた。

「…そいつと引き換えに、お前の家族が犠牲になったのにか?」

「えっ…」

想定外の言葉を投げ掛けられ、耳を疑った。

(――私の、家族?)

「…母さんの、こと…?」

そう尋ね掛けると、男は何か悟ったように首を横に振った。

「…そうか、陸は話さなかったのか。お前の父親と、弟のことを」

「……父親と弟…?なに…言ってる、の?」

男が何を言い出したのかが、理解出来ない。

何故、この男や陸が、父と弟のことを知っている筈があるのか――

「…私の家族は、母さんしかいないよっ…?父さんと風弓はもう、小さい頃に事故で死んでしまったんだって…母さんがそう言ったんだもの……」

何も知らないのに、適当なことを言って動揺を誘おうとしているのだろうか。

「ならその事故のとき、お前は二人の死体を見たのか?」
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