いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「まさか…洗脳されてない、の…?」

「…ああ、俺は自分の意思で月虹に従ってる。だから洗脳は受けていないし、記憶も消されていない」

「…!!どうして、貴方だけが…そんな…」

「月虹へ連れて行かれたときに、一応意思確認は全員が受けてる筈だぜ?素直に月虹に従うか、否かをな」

連れ去られた先でそんな選択を迫られて、普通は応じられる訳がない。

「其処で拒否した奴は記憶を消される。記憶を消しても従わない奴は洗脳する。それが月虹の連中のやり方だ」

「そんなことっ…どうして…!?何でそんなことっ…」

「月虹を創設した、薄暮の領主…奴は自分の目的のためならどんな手段でも使う。俺は奴とその利害が一致した…だから素直に従ったまでだ」

薄暮の領主の目的は――他国を侵略することだと聞いた。

「だったら、貴方は…貴方は何のために月虹へ手を貸すの…?」

そう問い掛けた瞬間、男はふと物憂げな表情でこちらの眼をじっと見つめた。

暗い色をした菫青石の瞳は、何故か少し寂しげに見えた。

「…俺は見返してやるだけだ。俺を虐げた、全てのものを」

「えっ…」

「そのためだったら、俺は何だってしてやる。だが、俺の力だけじゃ足りない…陸の力も要るんだ。不本意ながら、な」

ふと思い出した――先程この男が、自分の力は陸の力と相反すると言っていたこと。

陸の能力は風、もし対極の力を持つなら地属性の能力者ということか。

「…貴方は、一体……」
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