いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「ちっ…!」

するとその瞬間、香也の意識が途切れたのか手足の自由が利くようになった。

椅子から転げるように身を離すと、陸が傍にまで駆け寄ってくる。

「晴!!逃げろっ!」

「りくっ…」

走り出した陸に強引に腕を引かれる形で、地上へと降りる階段を目指す。

しかし突然床から石柱がせり上がって壁を作り、行く手を阻んだ。

「二人共、逃がすかよ…!!」

香也の叫び声を背に受けて、追い詰められた陸はふと足を止めた。

「――…今更何を言っても、言い訳にしかならないけど。だけど…これだけは伝えさせて」

「陸…?!」

「…四年前。充さんから娘がいるって聞いて、その子の写真を見せて貰ったときから。ずっと…俺はその子が好きなんだ」

「…え?」

陸は唐突に何を言い出したのか、訳が解らなくて困惑する。

「もしも月虹から出られたら、一目でいいから、彼女と逢ってみたかった。最初の願いはただ、それだけだったんだ」

なら、ずっと前から好きな人がいるって言っていたのは――

陸はこちらを振り向かないまま、弱々しく謝罪した。

「…傍にいるって約束、守れなくてごめん」
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