いとしいこどもたちに祝福を【前編】
次の瞬間、目の前が白い光に包まれたと同時に、身の周りで風が渦を巻く。

「陸っ…?!」

「風弓は、俺が絶対助けるから」

別れを告げるような言葉の後に、続いたこの光と風が一体何なのか――気が付いてしまった。

腕を掴んでいた陸の手がするりと解けて、離れていく。

「待って…やだ、陸っ!!」

咄嗟に陸の背中へ向かって伸ばした手は、身を包む風に弾かれて届かなかった。

「ぅ…、くっ…!」

息が出来ない程の強い風に呑み込まれた晴海の身体は、その瞬間に時計塔の最上階から地上へと飛ばされた。

――そして晴海を運び終えると、光と風は途端にか弱く、小さくなって消えてしまった。

「……っ…!!」

頭上に見える塔の天辺を見上げたまま、愕然と立ち尽くす。

「へえ…陸の奴、まだそんな小細工を仕込む余力があったのか」

「…!」

意外そうに呟く声のほうへ振り向くと、金色の双眸と視線がぶつかった。

「慶夜っ…!!」

「何にせよ、陸を連れ戻す手柄は香也に横取りされたってことか。つまらん雑魚の足止めを食ったばっかりに」

悔しげに独り言のように呟いた慶夜の掌からは、血のような紅い雫が滴っている。
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