いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「何度も言わせるな。俺に家族は存在しない…必要もない。俺の名前を気安く呼ぶな」

慶夜がそう、冷たく言い放った瞬間――賢夜を捕らえているその腕に一筋の光の矢が突き刺さった。

「っ!?」

血は吹き出なかったが、慶夜は咄嗟に腕を引いて賢夜を解放した。

賢夜は既に意識を失っているのか、そのまま慶夜の足元に崩れるように倒れ込んだ。

「賢夜くんっ!!」

慶夜が鋭く睨み付けた方向に、こちらへ駆け付ける京の姿が見えた。

「霊奈の跡取りかっ…くそっ」

矢を受けた腕を庇いながら、慶夜が身構えた瞬間、頭上から香也の声が降ってきた。

「――慶夜、目的は果たした。無駄な労力は避けろと言われてる筈だろ。戻るぞ」

「ちっ…仕方ないな」

突如姿を現した香也の言葉に、慶夜は口惜しげに顔を顰めつつも焔の中へと姿を消した。

「香也…!!」

思わずその名を叫ぶと香也はこちらを振り向いて、くすりと笑った。

香也が目的を果たした、ということは――

「待って、陸はっ…!」

「じゃあな、晴海」

晴海の頬にそっと触れてから、香也は掻き消えるようにその姿を晦(くら)ました。





割拠(かっきょ)の内の逡巡(しゅんじゅん) 終.
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