いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「!」

「向こうの領主に、君やご家族のことを交渉する予定だったけど…それで今は外部から下手に接触が出来なくてね」

「暴動って一体…」

炎夏で何が起きたのだろう、母や天地、それに自分が良く知る街の人々は、無事なのだろうか。

「詳しくはまだ判らないけど…現領主はその地位を追われることになるんじゃないかな」

秦の父親が、領主でなくなる――

「炎夏の領主である朱浜氏の評判は、僕も時折耳にしていたよ。それでも今まで領主で居続けられたのは、薄暮の後ろ楯があってのことだ」

「薄暮の、後ろ楯?」

「彼は薄暮に戦争で降伏してから、ずっと薄暮の領主の腰巾着を演じてきていた。その代わりに薄暮も、朱浜の悪政に不満を抱いて逆らう者への制裁には惜しみなく協力していたようでね」

それ故に今までは誰かが暴動を起こそうものなら、薄暮の圧力によって潰されてきたのだと京は言った。

「でもそれじゃあ、今回も炎夏のみんなはっ…」

「いや、それがどうやら今回は薄暮が動いていないらしいんだ。多分、朱浜氏は見捨てられたんじゃないかな」

「見捨てられた…?」

「陸の話では、月虹が陸を取り戻すために国を通じて炎夏の領主子息へ協力を求めたらしいけど」

そういえば日野の船で移動している間に、晴海も陸から同じ話を聞いている。

「本来極秘の施設の存在を明かしてまで利用した彼が、陸を取り戻せる絶好の機会を逃した――それが薄暮の怒りを買ったんだろう。炎夏の領主子息は公的な場に殆ど出席してなかったから、僕は面識ないけど…」

「あっ」

その言葉に思わず声を上げると、京が不思議そうにこちらを振り向いた。
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