いとしいこどもたちに祝福を【前編】
「晴海ちゃん?」

「…あの、炎夏で京さんに助けて頂いたとき、私に迫ってたの……炎夏の領主子息です」

遠慮がちにそう告げると、京ははた、と一瞬動きを止めてから「ああ」と手を合わせた。

「そうか…うん。有難う、良く解った」

満面の笑顔を見せた京が、その後こそりと「あれは酷い」と呟いたのが聞こえてしまった。

「とにかく今回の暴動の件で薄暮が動くことはないようだし…後は早くこの問題が収束することと、新たな領主が民衆の意に沿う形で決まることを願うばかりだね」

炎夏の状況が変わる――今は全く想像もつかないが、それで炎夏に暮らす人々にとって、もっと住み良い国に変われば晴海も嬉しいと思った。

「――さてと、この部屋か」

暫く歩き続けたところで、ふと京が幾つも立ち並ぶ扉の中の一つに目を止めた。

「晴海ちゃん。今から逢うのは、月虹の能力者の二人組なんだ」

「!それって、昨日春雷を襲ってた…?」

「…うん。間に合えば慶夜くんもそうしてあげたかったけど、保護出来たのは僕が対峙した二人だけだった。…本人たちは保護された、とは思っていないだろうけど」

そうだ、彼らは月虹にとって都合の良い偽りの情報を信じ込まされている。

保護された二人は月虹から解放されたというのに、そのことを自覚出来ていないということか。

「彼らの力は抑えてあるからその点は心配ないだろうけど、月虹の洗脳はまだ解けていない。彼らの口から、どんな言葉が飛び出しても防ぎようがない」

「…京さん」

彼は心配してくれているのか。

今から対面する二人が、父に関することで何か予期せぬ発言をするやも知れないと。
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