いとしいこどもたちに祝福を【前編】
振り向くと真っ白な毛並みの猫が一匹、慌てふためく陸の膝の上に鎮座していた。

「は、晴っ…これ、なに…っ?」

「あ…うちに良く来てる通い猫ちゃんなの。もしかして陸、猫苦手?」

あまりの慌てようにそう判断し、急いで猫を抱き上げて退けてやると、陸は眉根を寄せて白猫をしげしげと見つめた。

「ね……ねこ、…?」

まるで猫を生まれて初めて見たかのような陸の反応に、思わずこんな疑問が生じた。

「……陸、もしかして猫…見たことないの?」

「これ、ねこっていうの」

…まさか、見たことがないどころかこの生き物を呼称する言葉すら知らないというのか。

「え、えっと…抱っこしてみる?」

驚いていた割には興味津々の様子で猫を見つめているのでそう訊ねると、陸はゆっくりと頷いた。

「尻尾は嫌がるから触らないようにね?噛み付かれ……あれ?」

見たことも聞いたこともないのだから、当然抱き方も知らないのだろうと思っていたのに――

猫を受け取った陸の手付きは、どう見ても猫との触れ合い方に慣れた人間のそれだった。

尚且つ猫が嫌がる箇所には触れないように抱き抱えながら、顎を優しく撫でている。

猫も落ち着いた様子で、気持ち良さそうにごろごろと喉を鳴らした。

「あったかくて可愛い、ね。俺…ねこ、好きかも」

「そ、そう…」


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